★ [SilverSackの自画自賛] SilverSackの書斎から
飛鳥の遺跡に興味を持って、それを見るまえに「ブラ明日香 - 0. 飛鳥時代とは」で飛鳥時代についてWikipediaを情報源としておさらいをしました。で、飛鳥時代といっても、実際にはa) 蘇我氏の時代、b) 天智天皇の時代、c) 天武/持統天皇の時代の三つの時代に分かれていて、全体としては、天皇を取り巻く有力者の淘汰が進み蘇我氏のみになった後、天智天皇、天武天皇と二代かけて天皇中心の国を作り上げたという経緯であると知って、「いや、これって、天皇優勝に向かうトーナメントの準決勝と決勝だけじゃん。予選から見てみたいわ。」と思ったのでした。ここら辺をなんとか知りたいもんです。で、このシリーズのタイトルは「天皇、日本統一への道」です。
ここら辺は、邪馬台国の所在地論争とか、天皇の実在論争とか、正に「諸説あり!!」の世界なので、どこぞの博物館に行って「はい、分かりましたー。」なんてことはあり得ず、まずはいろいろな書籍にあたって理解を深めるところから始めることになります。でこちらは、「SilverSackの書斎から」に引っ越して展開します。
「新もう一度読む山川日本史」、「邪馬台国再考」、「卑弥呼とヤマト王権」読んできましたが、いずれも邪馬台国まででした。その後、古墳時代を取り扱った本を読みたかったのですが、意外となかったですね。中国の史記に日本が出てくるのは、3世紀の邪馬台国、5世紀の倭の五王で、4世紀は空白ということで、興味を引く内容になりにくいという事情なんでしょうか。そのなかで、橿原考古学研究所附属博物館に行ったときに仕入れた情報から「ヤマト王権の古代学」がここら辺を取り上げているということがわかりました。で、しばらくこの本を取り上げます。
まずは、古墳時代って、いつのことを指すかのを整理しておきましょうか。どうもこんな感じのようです。
| 時代名 | 年代 | 土器編年 | 主な古墳 |
|---|---|---|---|
| 古墳時代 初頭 | 3世紀前半(西暦200～250年頃) | 庄内式期、布留0式期 | 箸墓古墳(おおやまと地区) |
| 古墳時代 前期前半 | 3世紀後半～4世紀初頭(西暦250～310年頃) | 布留1式期1、布留1式期2 | 西殿塚古墳(おおやまと地区) |
| 古墳時代 前期中葉 | 4世紀前半(西暦310～340年頃) | 布留1式期2、布留1式期3 | メスリ山古墳(おおやまと地区) 行燈山古墳(おおやまと地区) |
| 古墳時代 前期後半 | 4世紀中程(西暦340～350年頃) | 布留2式期1 | 渋谷向山古墳(おおやまと地区) 佐紀陵山古墳(さき地区) 築山古墳(馬見地区) |
| 古墳時代 前期末葉～中期初頭 | 4世紀後半(西暦350～400年頃) | 布留2式期2 | 島の山古墳(おおやまと地区) 宝来山古墳(さき地区) 巣山古墳(馬見地区) 津堂城山古墳(古市地区) |
| 古墳時代 中期前半 | 5世紀初頭(西暦400～420年頃) | 布留3式期1、布留3式期2、TG232 | コナベ古墳(さき地区) 新木山古墳(馬見地区) 仲ツ山古墳(古市地区) 墓山古墳(古市地区) 上石津ミサンザイ古墳(百舌鳥地区) 造山古墳(キビ地区) |
| 古墳時代 中期中葉 | 5世紀中程前半(西暦420～450年頃) | 布留3式期3、TK73、TK216 | ウワナベ古墳(さき地区) 河合大塚山古墳(馬見地区) 誉田御陵山古墳(古市地区) 大仙古墳(百舌鳥地区) 両宮山古墳(キビ地区) |
| 古墳時代 中期後半 | 5世紀中程後半(西暦450～480年頃) | 布留3式期4、TK208 | ヒシャゲ古墳(さき地区) 市野山古墳(古市地区) 土師ニサンザイ古墳(百舌鳥地区) |
| 古墳時代 中期末葉 | 5世紀終期(西暦480～500年頃) | 布留4式期1、TK23/47 | 岡ミサンザイ古墳(古市地区) |
| 古墳時代 後期前葉 | 6世紀前半(西暦500～530年頃) | 布留4式期2、MT15 | 今城塚古墳(三島地区) |
| 古墳時代 後期中葉 | 6世紀中程(西暦530～560年頃) | 布留4式期2、TK10 | 河内大塚山古墳(古市地区) |
| 古墳時代 後期後葉 | 5世紀後半(西暦560～590年頃) | 布留4式期2、TK43 | 丸山古墳(おおやまと地区) |
この時期は、文献による信頼できる情報が限られているので、こういった古墳の築造状況、出土品の内容から、歴史をひもといていくようです。
「卑弥呼とヤマト王権」の寺沢さんは、「纏向遺跡=邪馬台国(2) 邪馬台国」で邪馬台国畿内説の立場ですが、今回読んだ「ヤマト王権の古代学」の坂さんは邪馬台国北九州説の立場でした。箸墓古墳が築造された時期と卑弥呼が魏に遣使した時期がほぼ同時期で、そこら辺をどう考えるかで、いろいろな説が生まれるようです。お二人の論拠を改めて整理しておきましょうか。それぞれの著作から引用します。
邪馬台国や卑弥呼が北部九州圏の問題だというのならば、具体的にそれはどの地域の、どの遺跡なのかを明確に挙げる必要がある。しかもその候補は、2世紀までのイト国の王都である三雲・井原遺跡群や、ナ国の王都である須玖遺跡群を凌ぐ大規模遺跡で、政治的・経済的・祭祀的な先進地といえる地域になければならない。(中略)少しでも考古学に明るい者なら、そうした遺跡も地域も九州に存在しないことはわかっているはずだ。
(「卑弥呼とヤマト王権(寺沢薫)」第3章 王権誕生への道 第2節 ヤマト王権の誕生と邪馬台国 [邪馬台国はどこか])
邪馬台国の時代、すなわち庄内式期においても、魏と交渉し、西日本一帯に影響力を及ぼしたような存在が、奈良盆地にはみあたらない。邪馬台国の所在地の第一候補とされる纏向遺跡の庄内式期の遺跡の規模は貧弱であり、魏との交渉にかかわる遺物がない。
(「ヤマト王権の古代学(坂靖)」第4章 邪馬台国の所在地 [女王国の統治の範囲])
真っ向から意見が対立していますね。上にどの時期が何年頃というのを示しましたが、土器等の出土物からの推定なので、10年、20年程度の解釈の差は当たり前にあるようです。恐らくその差が影響しているんでしょうが、寺沢さんは、纏向遺跡の隆盛は卑弥呼の活動と時期を一にしていると解釈し、坂さんは纏向遺跡の隆盛は卑弥呼/壹与の時代の後であると。
「(その4) 「卑弥呼とヤマト王権(寺沢薫)」(2) 邪馬台国」で、「卑弥呼と壹与が治めていた国、いわゆる邪馬台国は、中国(公孫氏および魏)の傀儡政権」ではないかと書きましたが、悪乗りついでに邪馬台国の所在地についても自説を。「(その5) 「卑弥呼とヤマト王権(寺沢薫)」(3) 邪馬台国と纏向遺跡」では、寺沢さんの邪馬台国の所在地は纏向遺跡との説に同意しましたが、この「ヤマト王権の古代学」を読んで、もう一度考えて、邪馬台国の所在地は北部九州である、との説に転向しました。
考える上で一番決め手になったのが、魏志倭人伝の「女王国自り以北には、特に一大率を置き、諸国を検察せしむ。諸国これを畏憚す。常に伊都国に治す。国中において刺史の如き有り。」の記載です。卑弥呼の女王国が伊都国を支配下におさめていたということです。で、当時の支配地域の範囲はどんなもんだったのか、なんですが、そこら辺の情報を両書から引用します。
2世紀のイト倭国の領域は、どれだけの広がりをもっていたのだろうか。それは後期後半の北部九州の部族的国家連合のマツリの広がり、つまり、マツリの最高の祭具である青銅製の広形銅矛・銅戈の分布範囲だと私は考えている。その具体的な領域とは、本節の前半でふれた中期までの北部九州圏から山口県を除き、代わって愛媛県と高知県の西部を加えた範囲である。
(「卑弥呼とヤマト王権(寺沢薫)」第2章 日本国家の起源を求めて 第2節 歴史的国家の起源 [金印埋納の意味])
これまで述べてきたとおり、奈良盆地の中で、最も高い生産力をもった地域集団が政治的集団として成長し、発展したのである。一方、奈良盆地内には、この他に『さき』『わに』『ふる』『そが』『かづらぎ』の地域集団も同様にそれぞれ政治的集団として成長する。
(「ヤマト王権の古代学(坂靖)」第5章 ヤマト王権の誕生 [「おおやまと」古墳集団])
北九州の最大政治的集団、奈良盆地の最大政治的集団とも、その範囲はかなり限られていて、その範囲の外への影響力は仮にあったとしても非常に微弱なものに留まっただろうと想像されます。そういう状況下で、邪馬台国が畿内にあった場合、これほど強い統率力を支配地域から遠く離れた北部九州に及ぼすことはありえないだろう、ということです。
でもまあ、魏志倭人伝の記載なんてどこまで史実かわからないし、邪馬台国は中国の傀儡政権だとしか思えないので、日本の国の成立の歴史の傍流でしかなく、そういう意味ではどこにあろうが、余り関心はないんですが。
(2024年 2月15日 記)