★ [SilverSackの自画自賛] SilverSackの書斎から
飛鳥の遺跡に興味を持って、それを見るまえに「ブラ明日香 - 0. 飛鳥時代とは」で飛鳥時代についてWikipediaを情報源としておさらいをしました。で、飛鳥時代といっても、実際にはa) 蘇我氏の時代、b) 天智天皇の時代、c) 天武/持統天皇の時代の三つの時代に分かれていて、全体としては、天皇を取り巻く有力者の淘汰が進み蘇我氏のみになった後、天智天皇、天武天皇と二代かけて天皇中心の国を作り上げたという経緯であると知って、「いや、これって、天皇優勝に向かうトーナメントの準決勝と決勝だけじゃん。予選から見てみたいわ。」と思ったのでした。ここら辺をなんとか知りたいもんです。で、このシリーズのタイトルは「天皇、日本統一への道」です。
ここら辺は、邪馬台国の所在地論争とか、天皇の実在論争とか、正に「諸説あり!!」の世界なので、どこぞの博物館に行って「はい、分かりましたー。」なんてことはあり得ず、まずはいろいろな書籍にあたって理解を深めるところから始めることになります。でこちらは、「SilverSackの書斎から」に引っ越して展開します。
古墳時代前期(西暦200年頃から西暦350年)は、巨大前方後円墳はもっぱら奈良平野の中のおおやまと地域で築造され、その地域の勢力が集中的に力を付けました。これが古墳時代中期(西暦350年頃から西暦500年頃)になると、巨大前方後円墳の築造は、大阪平野の古市地域(今の藤井寺市、羽曳野市のあたり)や百舌鳥地域(今の堺市百舌鳥駅周辺)に移ります。この時期に築造された巨大前方後円墳はこんな感じです。
| 築造年 | 古市地域 | 百舌鳥地域 | 佐紀地域 | 馬見地域 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 古墳名 | 墳丘長 | 古墳名 | 墳丘長 | 古墳名 | 墳丘長 | 古墳名 | 墳丘長 | |
| 西暦380年頃 | 津堂城山古墳 | 208m | 宝来山古墳 | 240m | 巣山古墳 | 253m | ||
| 西暦410年頃 | 仲ツ山古墳 | 290m | コナベ古墳 | 204m | 新木山古墳 | 200m | ||
| 西暦420年頃 | 墓山古墳 | 225m | 上石津ミサンザイ古墳 | 365m | 市庭古墳 | 253m | ||
| 西暦430年頃 | 誉田御廟山古墳 | 415m | ||||||
| 西暦440年頃 | 大仙古墳 | 486m | ウワナベ古墳 | 270m | 川合大塚山古墳 | 215m | ||
| 西暦480年頃 | 市野山古墳 | 230m | 土師ニサンザイ古墳 | 290m | ヒシャゲ古墳 | 219m | ||
| 西暦490年頃 | 岡ミサンザイ古墳 | 290m | ||||||
一時前方後円墳のメッカだったおおやまと地域での築造はなくなり、奈良盆地では北端の奈良市平城宮跡北側の佐紀地域と西部中央の馬見丘陵公園あたりの馬見地域に築造エリアが移り、それ以上に大阪の古市地域、百舌鳥地域での築造が盛んになりました。
築造エリアの変化をどう捉えるかについては、諸説あるようです。
ヤマト王権は、大和川流域一帯をすでに支配領域としていたとする見解のほか、畿内政権として、さらにそれより広域を支配していたとする見解などがある。どちらも、それぞれの地域の首長が、主導権争いを繰り広げ、古墳時代中期においてカワチの勢力がヤマトの勢力を圧倒したとする。ヤマトの勢力とは出自の異なった集団が王権を奪取し、カワチに新たな王権を樹立したとする見解もある。
また、古墳時代中期に王権を奪取したのが外来勢力であるとする見解もある。遠く大陸の騎馬民族にその出自を求める説を始め、国内では神武東征になぞらえて九州から移動したとする説もある。(「終章 ヤマトの王から倭国の王へ」235ページ)
坂先生の説は、ヤマト王権がカワチに進出したというものです。
古墳時代前期においてヤマト王権の王の支配領域は、「おおやまと」地域を端緒とし、前期後半代(布留2式期)にようやく「さき」地域を取り込んだのである。ヤマト王権が二人の王を輩出し、二カ所に王の支配拠点を設けてその勢力を増大させると同時に、カワチの有力地域集団が衰退する。(中略)カワチの有力地域集団の衰退により、ヤマト王権がカワチへ進出する契機をここにつかんだのである。(中略)
ヤマト王権は、ヤマトからカワチに進出し、その要所に大型前方後円墳と支配拠点を築いて、その支配領域を拡大するとともに、その勢力を伸長したのである。(「終章 ヤマトの王から倭国の王へ」235～237ページ)
ここら辺は、どうとでも表現できるんだろうなぁと思います。ヤマト王権というけれども、血の繋がった一族がそれなのか、血が繋がっていなくても地域集団であればそれに含まれて王は世襲ではなく集団内で能力があるものが継いでいたのか、あたりは判然としていなくて、繋がっているのか、入れ替わったのかをどう判断するのかの基準もないわけです。
前方後円墳が王権の証というのは、ヤマト時代もカワチ時代も維持されているので、系統は変わっていないと考えることもできますが、日本の王権はそれまでの政権との継続性を重要視する(武士政権は皆頼朝と繋がっていると主張するとか、天皇はヤマトと繋がっていると主張するとか)傾向があるので、入れ替わったけどそれを認めていないという可能性もあります。ここら辺は現時点ではなんとも言えないんだろうなぁと思っています。
私は、1世紀～2世紀の九州北部での国家の起こりを第1ラウンド、3～4世紀の奈良盆地での勢力勃興を第2ラウンドと呼んだのですが、この4～5世紀のカワチ地方の興隆はやっぱり第3ラウンドと呼ぶんだろうなぁと思います。
5世紀は、倭国が中国の宋と交流を持っていて、宋書にその記載があります。ざくっと内容は、以下の通りです。
この五王って誰?、という話ですが、倭王 武が雄略天皇だということはまず間違いないだろうとのことです。名を記した鉄剣の存在もあって、まあ、間違いないだろうと。坂先生によると、雄略天皇の宮は、奈良県桜井市の脇本遺跡、墳墓は岡ミサンザイ古墳と考えていて、宮がヤマトにあって、墳墓がカワチにあるということで、先の説、ヤマト王権がカワチへ進出したとの首長に繋がるようです。
他の4王はだれなの?、ですが、坂先生の説は以下のようです。
| 宋書の名 | 天皇名 | 墳墓 |
|---|---|---|
| 讃 | 不明(応神、仁徳、履中の説あり) | 大仙古墳 |
| 珍 | 不明(仁徳、反正の説あり) | 土師ニサンザイ古墳 |
| 済 | 允恭天皇(?) | 市野山古墳 |
| 興 | 安康天皇(?) | ヒシャゲ古墳 |
| 武 | 雄略天皇 | 岡ミサンザイ古墳 |
さて、この第3ラウンドですが、ヤマト地域とカワチ地域が倭国の支配領域だったことは間違いなさそうだと思います。んじゃ、その倭国の支配領域が日本のどこまでの範囲だったのかまではこの本では分かりませんでした。山川日本史では、九州、関東もその傘下のようでしたが、そこは別の本に持ち越しです。
(2024年 2月22日 記)